「長年の夢だった長期の海外放浪を終えて、今、何を思うか?」
そう問われたとき、真っ先に浮かぶのは、もちろん旅の思い出――美しい絶景や様々な人との出会いだ。
しかし、実はそれ以上に、じわじわと感慨深く思うことがある。
それは、
「5年間に及ぶ過食嘔吐が、この旅を境にピタリと止まった。そして、帰国から約2年が経つ現在も一度も再発していない」という、華やかさはないが、私の人生にとってかなり重大な事実だ。
なぜなのだろうか?
今回は、その理由を、ブログ主が独学してきた心理学の観点から考察していく。
また、それを踏まえて、同じ苦しみを抱えた人に向けた、解決のための具体的な対策もご提示したい。 もちろん、「海外放浪してこい!」という脳筋の提案ではないので、ご安心を!
日常でできる実践で、少しでもあなたの心が軽くなる一助となれば幸いだ。
1. 夢だった海外放浪への出発と、直前に襲ってきた「脳のブレーキ」

私はずっと、海外を気ままに巡る長期放浪に憧れていた。
しかし、就職してからは、せいぜい数日の休みしか取れないため、それは不可能となる。「このまま社会常識に従い、夢を諦めて定年まで働き続けるしかない」と思っていた。
そんな中、職場のパワハラでメンタルを病み休職。
転職活動もうまくいかず、金銭的理由から絶望の復職。 そして、同時に摂食障害が始まったのだ。
「何とかこの苦しみから逃れたい」と必死に情報を漁りまくった結果、辿り着いたのは、科学研究に基づくストレス対策の情報だった。そこから、心理学や脳科学等の知見を勉強し、実践しまくる日々が始まった。
その結果、数年後には「このまま夢を諦めて、最期に後悔したくない」と大葛藤の末、仕事を辞める決断をするに至った。
(詳しくはこちら→会社辞めます。【自分が会社員に向いていないことを悟った日】、幸せな仕事、幸せな人生とは【マレーシアで出会った1人の男性の話】)

コロナ禍が落ち着き、いざ出発の準備を進めていると、何度も不安が襲ってきた。
「なんでわざわざ安全な日本を出て、こんなに大変な準備をして、海外放浪に行く必要があるのだろうか?」
あんなに長年諦められなかった夢だったのに。
なぜ、土壇場になって、こんなぶち壊しにするようなことを思うのか?
実はこれ、心理学・脳科学的にはごく自然な反応である。
人間の脳には「ホメオスタシス(現状維持バイアス)」という防衛本能が備わっており、未知の環境に飛び込もうとすると、脳が必死に安全な現状にとどまらせようとブレーキをかけるのだ。
ホメオスタシス(恒常性)といえば、学校でも習ったように体温調節や血糖値の調節といった生体内での生命維持機能だ。しかし、これが現代社会における脳の場合だと、現状維持というぬるま湯に留まらせて、成長を阻害するというのは、なんとも皮肉なものである。
それを知っていたから、「これは脳のデフォルト機能が発動しているだけだ」と自分を論破し、不安を振り切って私は日本を飛び出した。
ここの葛藤に関しては、詳しくはこちら→【夢叶えるぞ】初の2週間バックパッカー旅に行ってきた報告【2023ペナン島一人旅①】(本番の長期海外放浪前に行った、2週間のプレ放浪旅)
海外放浪出発当時は、
「初の長期海外生活だから、自分がどれだけ耐えられるのかわからない。神経症気味で、ドミトリー宿のストレスにも耐えられないかもしれない」という不安があったため、最初は「まず2ヶ月」を目標にしていた。
しかし結果として、旅は3ヶ月、4ヶ月……と伸び、気づけば9ヶ月間もバックパッカーとして世界を歩き続けていた。

楽しかったからだ。
毎日が刺激に溢れていた。
自分が、こんな根無し草の生活に適応できるとは、意外だった。
そしてその過程で、過食嘔吐の衝動は一度も顔を出すことはなかった。
2. なぜ9ヶ月の海外放浪で「過食嘔吐」がピタリと止まったのか?(2つの心理メカニズム)
なぜ海外放浪で過食嘔吐が治まったのか、当初自分でも謎だった。
なぜなら、海外放浪中も日本での社会人生活と同じく、日常的なストレスにさらされ続けていたからだ。
安宿のゲストハウスに泊まり、人種も文化もマナーも異なる赤の他人と同じ部屋で寝起きするという、決して100点満点の快適とは言えない「バックパッカー旅」だった。

異国で一人という状況で、自分の英語力の低さに落ち込んだり、トラブルに直面したり、不衛生な環境にうんざりしたりすることもあった。そんなストレスフルな状況でも、一度も過食嘔吐したいとは思わなかった。
そして、それは帰国して約2年ほど経った今でも変わらない。
就職活動に苦労し、やっとの思いで採用された職も、給料はかなり安い。当然だが、今も毎日ストレスは多い。しかし、それでも、「過食したい!!!」という、あの抗えない激しい衝動を感じることすらなくなったのだ。
なぜ過食嘔吐が止まったのか。
そこには2つの心理的メカニズムがあったと考えている。
メカニズム①:「成功した」という体験の積み重ねが生んだ自己効力感

まず、過食嘔吐の根本にある心理の一つは、「人生や感情に対するコントロール感の喪失(無力感)」ではないかと考える。
自分ではどうしようもない環境や過度なストレスに晒されたとき、脳は手軽に快楽と麻痺を得られる「食」に走り、その後の罪悪感から吐き戻すという代償行動をとってしまう。
しかし、バックパッカー旅は真逆の世界だった。
言葉も通じないアウェイな環境で、次にどの街へ行くか、どこに泊まるか、トラブルをどう切り抜けるか――すべてを100%自分の意思で決定し、自分で解決しなければならない。
その過程で、
「ドミトリーでも案外ぐっすり寝られるようになったな」
「英語がうまく話せないことをずっと気にしていたけど、それでも案外なんとかなるもんだな」
「自分、意外とこの環境に適応できてるじゃん!」
と、こうした小さな成功体験の連続が、「自分はできた!」という有能感を育み、「自分には自分の人生をコントロールする力があるんだ!」という強固な自己効力感を回復させていったのではなかろうか。
メカニズム②:「リソースの有限性」がもたらした自発的なマインドフルネス

仕事と家の往復といったルーティン生活、あるいは日常のぬるま湯の中にいると、私たちは時間や労力、お金(毎月の給料)といった資源が「今後も無限に続いていくもの」と錯覚しがちだ。
だから、空き時間にダラダラスマホをみて過ごしてしまったり、大事な人との限られた時間ですらスマホを見ながら無下に過ごしてしまったりする。
過食嘔吐をしていた時のブログ主は、持て余した思考や不安を無駄に頭の中でグルグルと巡らせ、過食嘔吐という行為にエネルギーを浪費してしまっていた。後悔して「もう次は絶対にしない」と自己嫌悪に陥っては、また同じことを何度も何度も何度も繰り返してしまっていた。
しかし、バックパッカー旅では、日常の真逆で資源が明確に「有限」だった。
「限られた資金(貯金)の中で、できるだけ長く旅を続けたい」という切実な目的があったからだ。
資源が有限だと自覚した瞬間、脳は無駄なことにエネルギーを使わなくなる。
「今、目の前の屋台飯を楽しむ」
「今日の移動手段と宿を確保する」
「今この瞬間の景色を目に焼き付ける」
そうした自然発生的なマインドフルネス(今この瞬間への集中)の状態がずっと続いていたのだろう。
「今、ここに集中する」というマインドフルネスは、ストレス軽減にも確かな効果がある手法である。
結果として、ストレスを食べる行為で紛らわせる必要性そのものが、キレイに消え去ったのだろう。
3. 過食嘔吐は「意志の弱さ」ではなく「人生のハンドル」を握っていないサインだった

過食嘔吐していた頃、私はずっと 「自分はストレスに弱く、自制心も弱い。食べ物も、お金も時間も無駄にして、なんて最低な人間だろう」と日夜自責していた。
完全に過食衝動の言いなりで、自分を全くコントロールできておらず、心も体もボロボロだった。まさに、過食嘔吐が自傷行為とも言われることを痛感していた。
しかし、この9ヶ月の旅を通して気づいたのは、それは間違いだったということ。
過去の私は「意志が弱かった」わけではないということだ。なぜなら、過食嘔吐は自制心で解決する問題ではなかったからだ。
自分の人生のハンドルを、自分で握れず、誰か/何かに握られていただけだったのだ。
(誰かというのは、世間や会社の価値観、SNSの誰かの意見、はたまた上司や親など特定の誰かだったりする。)
海外放浪での、根無し草のように気ままに次の街を選び、留まりたければ留まる。
何をするか、何を食べるか、どこに泊まるか、何時に起きるか・・・どんなに些細なことでも、すべて自分の意思で決めて、自分で手配して、自分で行動する。何があっても、すべて自分で対処する。
過去のこと、未来のことではなく、今目の前のことに集中する。
このような海外放浪を通しての「自分の人生の舵取りを、完全なセルフコントロール下に置いている」という事実と実感が、ストレス時の過食嘔吐という自傷行為を引き起こすメカニズムを打ち砕いたのだと考察する。
4. 日常で「人生のコントロール権」を取り戻すためのヒント

では、ブログ主の体験から導き出される、今過食嘔吐に苦しんでいる方々へのアドバイスとは?
「過食嘔吐治したいなら、皆海外放浪に行ってらっしゃい!」
・・・な~んてな!
そんな脳筋な考えは露ほどもないので、ご安心を。
そもそも、私のように海外放浪に憧れある人ならまだしも、「全然旅なんか興味ねーわ」って人もいるし、仕事辞めるとか色々ハードすぎるので。
大切なのは、「日常生活の中で、自分にコントロール権を取り戻すこと」である。
読者の皆さんが日常で試せるテクニックを2つ提案したい。
テクニック①:時間とエネルギーの「有限性」を意識する

「時間は無限にある」と思うと、脳は嫌なことや不安なことで思考を満たしてしまいやすくなる。
だから、「今日という日の残りのエネルギーはあとこれだけ」「自分の人生の時間は有限である」と意識してみてほしい。人間は、資源が有限だと自覚すると、自ずと「今、本当に大切なこと」に集中するマインドフルネスの状態を作りやすくなる。
かのスティーブ・ジョブズも毎朝「もし、今日が人生最後の日だったら?」と考えていたという話も有名だ。これにより、長い連続の中のなんてことはない1日でなく、今日というかけがえのない1日として認識できるようになる。
また、例えば、離れて暮らす親御さんが居る場合、「あと何年、何回会うことができるだろう?」と考えてみよう。そうすると、1回1回の会う時間をしっかり大切にしよう、親孝行しておこうと思えてくるのではなかろうか。
お試しあれ。
テクニック②:日常の中に「小さなアウェイ(新しい挑戦)」を作る

旅の本質とは、慣れ親しんだ安全圏(コンフォートゾーン)を少しだけ飛び出し、未知の環境に適応していく体験のことだ。 そしてこれは、海外に行かなくても、日常で十分に再現できる。
例えば、
- 週1で「新しいこと」に挑戦してみる
(例:いつもと違う帰宅ルートを歩く、入ったことのないお店に入る、食べたことのないメニューを頼むなど) - 「超・小さな新しい習慣」を始めてみる
(例:運動なら毎日5回スクワット、読書なら毎日1ページだけ読む)
抵抗感を減らし、「これなら何とかできそう」と思える極小の習慣からスタートして記録をつけるのがポイント。できた自分をしっかり毎日褒めてあげよう!「何日続いたか」だけでなく、もし途切れても自責せず、「その後復帰できた回数」を記録するのもおすすめだ。
慣れきった日常では、脳は同じパターンを繰り返す自動操縦(パイロット)状態となり、その結果、何度も嫌なことを思い出したりする反芻思考が起こりやすくなる。
それを意図的に抜け出し、小さな未知への不快感を突破して「案外、自分って新しい環境にも適応できるじゃん」と脳に成功体験をさせてあげること。
この「日常での小さなアウェイ体験」の積み重ねこそが、脳のコンフォートゾーンを広げ、強固な有能感と自己効力感を育んでくれるのだ。
お試しあれ!
おわりに

もし今、あなたが過食嘔吐に苦しんでいるなら、どうか自分を責めないでほしい。
あなたは心が弱いのではない。
人生に失敗しているわけでもない。
ただ、一時的に、自分の人生のコントロール権を見失っているだけかもしれないのだから。
まずは今日、あなたの人生のハンドルを、ほんの少しだけ自分の手で握り直してみてはいかがだろうか。
大事なのは、いきなり過食嘔吐をゼロにすることを目標にしないことだ。
日々の生活の中で「小さな成功体験」を積み重ね、「自分はできる」と実感できるようになること。そして、今目の前のことに集中することである。
もしかしたら、私の提案した方法では効果を感じられない人もいるかもしれない。
でも、現状を変えたいなら、何か行動を変えるしかない。
「ある日突然奇跡が起こって過食嘔吐が治る」なんて都合の良いことはないのは、あなたがすでに痛感しているはずだ。
あなたの人生を変えられるのは、あなたしかいない。
何回心が折れても、もう立ち上がれないと一瞬思っても、最後にはまた立ち上がればいい。 それを繰り返しながら、人生という荒波を進むために、自分の手で舵を切れるようになろう。
私自身、過食嘔吐は治まったものの、まだまだ人生の荒波に揉まれまくって、舵を見失いそうになることばかりだ。
あなたは一人じゃない。
この記事が、あなたを生きやすくするほんの少しの助けになれば、幸いだ。
最後まで読んでくれて、ありがとう!


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